今回のテーマは「無常」です。
無情ではありませんよ(笑)
「祇園精舎の鐘の音、諸行無常の響きあり」
これは平家物語の冒頭です。
ここに無常と言う言葉が使われています。
ちなみにこの冒頭の意味は?
「祇園精舎の鐘の音には、すべてのものは常に変化し、同じところにとどまることはないという響きがある。」と言う意味です。
世の中は同じ状態に留まらず、常に変化し続ける事を、鐘の音の響きを使って例えているわけですが、テニスも全く同じ事が言えます。
同じ事は絶対に起こらないんです。
一見同じように見えるボールであっても、絶対に同じではありません。
ところが、同じフォームや打ち方、配球、展開を実行する事で、テニスが上達すると勘違いしているコーチ、プレーヤーが非常に多いです。
大切な事なのでもう一度言います。
世の中は「無常」なのです。
そして、テニスも当然、「無常」なのです。
となれば、一体、何を練習する必要があるのか?
答えは無常に対応する力です。
つまり、対応力です。
対応力とはその瞬間、瞬間に起こった出来事にどれぐらい対応できるか?
予め、用意されていたマニュアル通りに実行する事は対応力とは違います。
残念ながら、マニュアル通りに実行する事をいくら繰り返しても、無常には対応できません。
正しいフォームや打ち方、配球、展開が出来るようになる為の練習は事前に用意されたマニュアル通りに実行する事と全く同じです。
つまり、「無常」に対応する練習じゃないんですね。
ですから、結局、上手くなっているようで、上手くなりません。
テニスが上達する為にはマニュアル通りにできる事を練習するのではなく、逆に既成概念に囚われず、自由に対応する事を練習しないといけないのです。
ただ、こうして、活字にしてご説明すると「無常に対応する事は難しい」と感じる方がおられるかもしれません。
ですが、実は人間の身体はとても素晴らしい能力を備えているので、誰でも、無常に対応する事ができるのです。
例えば、自転車に乗っている状態。
これは無常です。
決して同じ状態に留まる事がなく、バランスをとり続けています。
その為に、自転車はコケることがなく、乗りこなす事ができています。
逆に自転車に乗っている時に、固定された理想の同じフォームを維持し続けたら、どうでしょう?
バランスが取れなくなって、コケてしまうのは想像できると思います。
自転車は常に、形が変わり続けて、バランスを取っているのでコケないのです。
テニスの動きも非常に良く似ています。
同じボールではない、相手のボールに対して、常に理想の同じ動きをしようとするとミスをしてしまうのです。
これは配球や展開も同じです。
状況が変わっているのに、同じような配球をしても、効果を発揮する事はないんです。
配球、展開もその瞬間に対応して始めて、自分はリスクを負わず、相手に影響を与える事になるのです。
マニュアルはとても便利な物です。
ですが、「マニュアルを良し」とする思考が身についてしまうと対応力が失われ、本来の能力を伸ばす事はできなくなります。
ましてや、オリジナリティなどは絶対に発揮される事はありません。
テニスはその人の思考や価値観が具現化された物です。
マニュアル思考を持っている人がテニスをすると、自分では意識しなくても、マニュアル的にテニスを身に着けようとします。
つまり、正しい動きやフォーム、配球、展開などを拠り所にすると言う事です。
その為に、努力と上達度が乖離していくのです。
テニスは常に対応力を求められるスポーツです。
それは自転車に乗るような物です。
行き交うボールに対して、常にバランスが取れるように練習しないといけないのです。
バランスが取れなくなった時、自分がミスをしてしまうわけですね。
こんな感覚を身につけるには、まずはテニスが「無常」である事をもう一度理解してください。
無常に対応するには自分も無常である必要があります。
テニスボールや相手が「無常」なのに、自分は「常=いつも変わらない。いつも同じ状態が続くこと。」では、対応できないんです。
以上、本日のテーマは「無常」でした。
何か、ヒントになれば、幸いです。
いつも長文お読みいただいて本当にありがとうございます。
フィーリングテニス
戸村基貴
写真提供:小林一仁(zonephotography)
コメント